サツマイモ栽培における窒素・リン酸・カリウムの肥効についてまとめたいと思います。
窒素(N):茎葉と全体生育への影響
窒素は葉緑素の生成に必要で光合成を支える重要養分であり、初期生育に欠かせない。適量の窒素施用により茎葉が旺盛に伸長・分枝して光合成能力が高まり、これが塊根への養分供給を支える。
一方、窒素過剰が生育初期の塊根への分化を阻害し、栄養素が地下部に転流できずに茎葉が過度に繁茂する「つるぼけ」状態を招く。この結果、塊根へのデンプン蓄積が減少し、収量や品質の低下につながる。
窒素75kg/haまでは収量改善するが、これ以上増やすと収量改善効果は頭打ち、もしくは減少することが多い。窒素施肥を増やすとサツマイモ中のβ-アミラーゼ活性(デンプンを糖に分解する酵素)が高まるとの報告もある。
リン酸(P):根の発育と塊根形成への影響
リン酸は植物のエネルギー代謝に関わる重要要素で、サツマイモでは根系の発達を促進し、塊根の形成に寄与する。特に生育初期に十分なリン酸を吸収させることで地下部の根張りが良くなり、植え付け後の活着と塊根への養分転流がスムーズになる。
リン酸は窒素やカリウムほど直接的に塊根の肥大や形状を左右しないが、初期に十分なリン酸を確保することで、根系が充実し、結果的に収量の安定につながる。不足すると根の発育不良により塊根数や肥大が伸び悩む。
過多による生育障害はあまり発生しないが、極端な過剰状態では土壌中の他元素(亜鉛や鉄など)の吸収を阻害し、微量要素欠乏を誘発する場合がある。
条件次第ではリン酸を多めに施すとイモのデンプン含量が高まり粉質(ほくほくした食感)になりやすいことが報告されている。
また、窒素固定内生菌の活性にも影響し、適切なリン酸供給は窒素固定の促進につながる。
カリウム(K):塊根の肥大とデンプン蓄積への影響
カリウムはサツマイモが大量に必要とする要素で、光合成を促進して同化産物のデンプン蓄積や糖の転流(移動)を助け、塊根の肥大を促進する。カリウムが十分にあると細胞の水分バランスや酵素活性も整い、結果的に植物全体の健旺性や耐病性も高まる。
また、カリウムは塊根中のデンプン含量を高め、甘味や食味の向上にも寄与する。過多による生育障害は起こりにくいものの、過度の蓄積は土壌中で他の陽イオン養分(カルシウムやマグネシウム)の吸収を競合的に阻害する。
欠乏状態ではイモ中の糖や有機酸含量が低下して風味が損なわれることが知られている。
まとめ
サツマイモ栽培における窒素、リン酸、カリウムは、それぞれが異なる役割を持ち、生育、塊根形成、収量、品質に複合的に影響します。
特に、前作で別の野菜を作っていた場合など窒素の過剰は起こりやすく、「つるぼけ」の発生をまねいて収量を低下させる重要な要因となります。
リン酸は根系発達と初期の塊根形成に、カリウムは塊根の肥大、デンプン蓄積、甘味や食味の向上に大きく寄与します。
これらの栄養素を適切な量とバランスで施用することが、サツマイモの安定した高収量と高品質を実現するための鍵となります。各栄養素の過不足がもたらすリスクを理解し、土壌の状態や生育段階に応じた施肥設計を行うことが重要です。