サツマイモのつるぼけ現象&蔓返しについて

前回、肥効について書いた通り、窒素過剰によりサツマイモにはつるぼけ現象が発生することが知られています。これについて植物ホルモンから見たメカニズムを解説します。また、後半には、サツマイモ栽培をするうえでよく話題にあがる蔓返しという作業について触れたいと思います。

つるぼけ:植物ホルモンから見たメカニズム

窒素過剰によるサツマイモのつるぼけは、植物ホルモンのバランス変化によって塊根形成が抑制されることで引き起こされる。窒素が多い環境では、ジベレリンとサイトカイニンの合成が促進され、茎葉の徒長と細胞分裂が活発になる。特に、ジベレリン濃度が高い根では初期に木質化(リグニン化)が進み、塊根へ分化すべき根が吸収根のまま終わってしまう。

塊根へと分化した根はシンク器官となって葉から大量の光合成産物を蓄積する。しかしつるぼけでは、このシンクが十分に形成されないために光合成産物の転流先がもっぱら新葉やつるの成長となり、地下部への同化産物配分が低下する。

また、塊根の形成に関与するオーキシンの相対的な低下や、塊根肥大を促すアブシシン酸の減少が起こり、結果として地上部の成長が優先される。

一方で、窒素無施用(極端な低窒素)の場合は、初期からアブシシン酸(ABA)やサイトカイニンの合成が抑制されることで、根系の発達が不十分となる。特に、ABAの不足はストレス耐性の低下を招き、環境変化に適応しにくい根が形成される要因となる。

また、サイトカイニンが少ないことで細胞分裂が十分に促進されず、根の数や塊根への分化能力が制限される。これにより、根全体の活力が低下し、初期の塊根数の確保が困難となるため、最終的な総収量の伸びが抑制される。

つるぼけを警戒するあまり、窒素を無施用するのもよくないのである。

蔓返しは百害あって一利なし

戦争前後に書かれたサツマイモの栽培指南書を読むと「蔓返しは百害あって一利なし」と書かれていることが多い。にもかかわらず、未だに蔓返しをしましょうと書かれていることが多いのを不思議に思っている。

蔓返しのデメリットについて書きたいと思う。

まず、つるを持ち上げる際に茎や葉が傷つき、植物にストレスがかかることで生育が阻害されるだけでなく、葉の損傷によって光合成量が低下する。また、傷口から病原菌が侵入しやすくなり、特に高温多湿の環境では病害の発生リスクが高まる。

加えて、蔓返しによって葉が裏返ると、一時的に光合成効率が低下する。葉は光を最大限に吸収するための角度や表面構造を持っているが、裏返ることで光の取り込みが妨げられ、光合成能力が落ちる。特に強い日差しの下では、日焼けによる葉緑素の損傷が起こり、光合成の回復が遅れることもある。

さらに、蔓返しは手作業で行うため、大規模栽培では労力と時間を要し、作業負担が大きくなる。

蔓返しをする理由として、蔓がのびた先で小イモができると、収穫するはずのイモが大きくならないと書かれているが、実際のところはそこまで影響もないし、むしろ大きいのができれば、儲けものぐらいで考えるのがちょうどよいと思う。