サツマイモは乾燥や高温に比較的強いとされているが、近年のように過度の乾燥や高温が発生すると、サツマイモの塊根形成に影響がでてきているのが散見される。
サツマイモの塊根形成は、生育初期に適切な水分環境と温度条件が確保されることで順調に進む。しかし、過度の乾燥や湿潤、高温や低温といった極端な環境ストレスは、塊根への分化を阻害し、最終的な収量や品質の低下を招く要因となっている。
これらの環境ストレスは、主にホルモンバランスの変化や根の生理機能の低下を通じて塊根形成に影響を及ぼす。それぞれのストレスがどのようなメカニズムで悪影響を及ぼすのかまとめてみた。
水分ストレス
土壌水分が不足すると、植物は乾燥ストレスに対応するためにアブシシン酸(ABA)の合成を増やし、気孔を閉じて水分蒸散を抑える。しかし、ABAの増加は細胞分裂や伸長の抑制につながり、根の発達が遅れることで塊根の分化が進みにくくなる。また、乾燥条件ではサイトカイニンの合成も抑制されるため、根の成長が停滞し、塊根の元となる根の数が減少する。この結果、根の木質化が進み、塊根へ分化するはずの根が吸収根のまま発達してしまい、最終的な収量が低下する。
一方、土壌中の水分が過剰になると、酸素供給が不足し、根の呼吸が妨げられる。根の細胞分裂や肥大には酸素を利用したエネルギー供給が必要であるため、酸素不足により塊根形成が抑制される。また、湿潤環境では根がストレスを受け、エチレンの合成が促進される。エチレンは根の伸長を抑制する作用があるため、塊根形成に必要な根の発達が十分に進まず、細根の割合が増えてしまう。さらに、過湿条件では病原菌の活動が活発になり、根腐れ病などのリスクが高まり、根の成長が阻害されることで塊根形成に悪影響を及ぼす。
温度ストレス
高温環境では、植物の呼吸量が増加し、光合成で得た炭水化物がエネルギーとして消費される割合が高まる。この結果、塊根へ蓄積されるべきスクロースやデンプンの量が減少し、塊根の肥大が抑制される。また、高温条件ではエチレンの合成が促進され、根の成長が抑制されることにより、塊根形成が進みにくくなる。加えて、オーキシンの分解が早まることで塊根誘導のシグナルが弱まり、根の細胞分裂や分化が適切に進まなくなる。
一方、低温も塊根形成に悪影響を及ぼす。 低温環境では、細胞の酵素活性が低下し、細胞分裂や伸長が抑制される。特に15℃以下の低温では根の成長速度が著しく低下し、塊根の形成が遅れる傾向にある。また、低温ストレス下ではホルモンバランスが乱れ、サイトカイニンやオーキシンの合成が抑制されることで根の発達が鈍化する。この影響で、塊根の初期形成が遅れ、最終的な収量が低下するリスクが高まる。